愛を欲しがる優しい獣

「木下課長、出張費を横領していたんだ」

「課長が?」

木下課長が横領をするなんてとてもじゃないが信じられなかった。

木下課長は40代後半の営業一筋の堅実な人で、横領なんてリスクの高い真似をするはずがない。

「朝方、監査部が課長のデスクからあらかた荷物を持って行ったよ。おかげでこっちはてんてこ舞いだ」

課長のデスクを見るとすべての引き出しが開け放たれ、立てかけてあったファイルはひとつ残らず回収されていた。渉の言っていることの真実味が増す。

「何かの間違いじゃないのか?」

「間違いなら良かったんだけどな……」

課長の横領額は数百万、その内のほとんどがカラ出張による架空請求だ。横領に至った経緯は未だ不明である。渉は機械的に説明すると、通常営業が不可能になった営業部を見て諦めたようにため息をついた。

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