愛を欲しがる優しい獣
「おい、鈴木!大丈夫なのかよ」
会議室から営業部に戻ってくると、渉がすぐさま駆け寄ってきた。
「しばらく自宅待機だと」
急に真面目に働くのが馬鹿らしくなって、渉に向かってデスクの鍵を放り投げる。
「俺、帰るわ。あとよろしく」
提出を求められた荷物の類は渉に任せておけばよいだろう。
今まで真面目に働いてきたのだから、これぐらいは許されるだろう。
見られて困るようなものは最初から会社に置いてない。
……私物も、書類もだ。
己の身の潔白を証明するのを他人に任せるなんて腹立たしいが、今はこうするしかなかった。
(あーあ……自宅待機か……。どうするかな……)
会社から出て伸びをすると、自分の行く末を嘆く気持ちも少しは落ち着いた。
今朝も太陽は絶好調で、これでもかとアスファルトを焦がしている。
本当なら今頃、空調のきいた営業部のフロアで仕事に精を出していたというのに。