愛を欲しがる優しい獣

(そっか、関谷さん……鈴木くんのことを……)

関谷さんが鈴木くんを好きになるのは自然なことだったし、私が口を出す権利はない。

鈴木くんがモテるのは前々から知っていたし、営業部のエースなのだから前途洋洋の若者を魅力的に思う人だっているだろう。

……ただ。

彼の優しさを私以外の人が知っているなんて考えたことがなかった。

まるで鉛を飲み込んだような気持ちになる。

(私……)

「もう、食べないの?」

一向に箸が進まない私を訝しんで椿が声を掛ける。

「ケーキ食べ過ぎちゃったからダイエット!」

心配させまいとおどけて答える。

あれほど空腹だったというのに、食欲はすっかり失せていた。

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