愛を欲しがる優しい獣

58話:牙をむいた羊


“……ずっと好きだった”

あの時、鈴木くんははにかみながら言ってくれたけれど。

果たして今でも同じ気持ちでいてくれているのだろうか。

鈴木くんと付き合い始めて、私は自分の中に眠っていた沢山の気持ちを知った。

ぽっと胸に光が灯るような温かさも、髪を逆立てるような激しい怒りも、声を上げて笑いたくなるような楽しさも、すべて鈴木くんが与えてくれた。

そんな彼が唯一与えられなかった感情がある。

……私はまだ、誰かを愛する気持ちを知らない。

結局、どれだけ一緒の日々を過ごそうとも、私は……恋に絶望したあの日から一ミリも変わっていないのだ。

だから、いつかこういう日が来ると思っていた。

鈴木くんをいつまでも繋ぎとめておくことなどできない。

素敵な女性は世の中にはたくさんいるし、その内の何人かは本気で鈴木くんのことを好きになってくれるだろう。

……関谷さんのように。

(ねえ、鈴木くん)

……私があなたを好きにならなかったら、その時はどうするつもりだったの?

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