愛を欲しがる優しい獣
「……俺、佐藤さんを手放すつもりなんてないよ」
思いの外近くで聞こえた声に驚いて、持っていた皿を取り落とす。
音を立てて割れた皿に注意を払う間もなく、鈴木くんは私の唇を強引に奪った。
(な……んで……)
……切羽詰った優しさの欠片もないキスだった。
押し返そうともがいた手は彼の細い指に絡めとられる。まるで、本当の恋人にでもなったような錯覚に陥る。角度を変え執拗に求められると、息も絶え絶えになった。
拒絶の言葉を発したくても、聞きたくないと言わんばかりに根こそぎ掬い取られる。
普段の優しい鈴木くんからは到底考えられないほどの荒々しさと執拗さだった。
私は食器棚を背にずるずるとその場にへたり込んだ。