愛を欲しがる優しい獣

「佐藤さんは着ないの?」

「着ないわ。みんなの着付けだけで精いっぱいだもの」

みんな浴衣を着たがる年頃なのだ。毎年、ワーワー言いながら送り出すだけでやっとだった。自分のことまで考える余裕などない。

「見てみたいけどね。佐藤さんの浴衣姿」

鈴木くんはそう言って、ビーズのついたヘアピンを愛おしそうに撫でた。

……もし私が浴衣を着たら、彼はどういう言葉をかけてくれるのだろうか。

「あの……それで、花火大会なんだけど……」

「ごめんね……。その日は仕事なんだ」

鈴木くんが本当に申し訳なさそうに言うから、私は無理やり言葉を飲み込んだ。

「そっか…それじゃあ仕方ないよね……」

“一緒に行かない?”の一言さえ満足に伝えられないのは夏の暑さのせいなのか。

それとも、別の理由があるからなのか。

……私にはどうしても分からなかった。

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