声をくれた君に


「ねえ、どうして作文読まなかったの?」

「だって…」

彼は小学生の頃から言葉数が少なかった。

「ねえ、作文見せてよ」

そして私は、とにかく天真爛漫な少女だった。

「わ、ちょっと、櫻田!」

「えっと、僕の将来の夢は、美容師になることです…

美容師って髪の毛切る人でしょ?」

「うん…」

私はぱっと目を輝かせた。

「すごい!佐野くんかっこいいー!」

「でも俺、すげー不器用なんだ」

「不器用?」

「うん。

ハサミとか使うの上手くなくて…

だから美容師には向いてないんだ」

私は彼の言葉に首を傾げた。

「美容師はハサミ使うの上手くなくちゃいけないの?」

当時の私は彼にむちゃくちゃな質問をした。

「あ、当たり前だろ!

だって人の髪の毛切るんだから…」

「でも私、将来の夢歌手だけど

全然歌上手じゃないよ?」

「え…?」

「歌は上手じゃないけど、

でも、好きなの、大好きなの!

歌うことが好きで好きで仕方ないの!

それだけじゃ足りないのかな?」

なんて理屈の通らない説明だったんだろう。

でも今でもその気持ちは変わらない。

うまく歌えないけど

私は歌うことが好きだから、大好きだから

歌手になりたいって気持ちはそれだけで十分だって思う。

それから私は彼に一曲歌った。

音程はめちゃくちゃだった。

でも彼はすごく目をキラキラさせてた。

そのことをハッキリと思い出した。


< 164 / 209 >

この作品をシェア

pagetop