音色
 「grass garden」

 客席数100名の小さなライヴハウスの前には、チケットを持っていない女性があちらこちらで集団を作って立っていた。
 その数、…………不明。

 とにかく、すごい。言えるのはそれだけ。
 この人ごみを縫って入らないといけないのか。
 回れ右してもと来た道を帰ろうとした利香を、きゃあっという黄色い声が包んだ。

 脇を一気にすり抜ける人々の向かう先には、1台の白い車。スタッフ入り口前にゆっくり滑り込み、そっと停止する。

 人々がそちらに移動するのを横目に、利香は入り口に向かった。いや、「向かわされた」。

 近寄ってみなければ様子など見えない車中から、鋭い視線を浴びたから。
 開場時刻はとうに過ぎ、開演まで残り僅かというこのタイミングで本日の主役が現れるというのはどういう神経なのだろう
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