音色
 結局、席についてしまった。

 チケットが届いてから10日あまり。
 母との攻防に負け、光の「帰ったらどうなるかわかってんだろうな」オーラに屈服し、この場にいるなんて。

 チケットで座席番号を確認し、腰掛けようとした利香の目に、1通の封筒が映った。
 …………?

 封のされていないそれから出てきたのは、1枚のカード。
『お越しいただきありがとうございます。今宵ひととき拝借します――』
 甘い香りが立ち上る。

 席を探している間、あちらこちらで漂っていた匂いがこれだということに気づき、納得した。
 女性ばかりだと思っていた客層は、意外にも男性客が奮闘していて、大まかに男性7女性3という割合。

 光のライヴには何度となく足を運んでいるが、男女比逆転現象は今回が初めてだと思う。
(チーム佐溝効果、かなぁ)
 一新したらしい、光と一緒にツアーを回るメンバーのファン層が男性に偏っているのかも知れない。
 そう解釈し、カウンターで買ったカクテルを口に含みながら、もう一度カードを見た。

 先程気づかなかった見慣れた筆跡が目に入ってくる。
『終わってもそのままそこにいて』
(…………)
 もう、何も言いたくない。


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