裏切り
最終楽章
悪夢の時は刻々と近づいていた。
「ねぇ、お姉さま。僕、お姉さまのピアノの独奏が聞きたいな」
鈴音が可愛らしいくりっとした目で見つめながら言う。
その可愛らしい弟に「えぇ。いいわよ。何の曲がいいかしら?」
そう言いながら二人は広間から出ていった。
「早く早くっ!」
「わかってるわよ」由利亜が優しく微笑みながら大きな白いピアノの蓋を開ける。
大きなピアノの蓋をのぞきながら鈴音は肘をついて姉の演奏を待つ。
やがて、綺麗な音色が鈴音の耳に響きだす。
「お姉さま。将来の若き天才ピアニストだね」
「まぁ、 鈴音ったら」
弾きながら由利亜が言う。二人の部屋にはまるで夢の世界にいるような綺麗で、美しい地平線のかなたにいるような現実の世界とは思えない空間のようだった。二人の夢のような心地になっていたこの頃、この別荘ではすでに悪夢は始まっていたのだ。
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