木曜日の貴公子と幸せなウソ


それは誰のために買ったココア?

エミちゃんとか子どものためのココアじゃないの?

私のための物じゃないのに……。




車は比較的新しい茶色のマンションの駐車場に入った。

……今、奥さんは出産で入院中。

だから、私を連れ込むには都合がいい。

そういう事……なのかな?

後部座席から私の通勤カバンをおろして、肩にかけた先輩は助手席に回ってきて、私の腕をつかむ。

引っ張られた勢いで、先輩にもたれかかる形になると、私の肩を抱き寄せた先輩。

バンッとドアを閉めると、ピッという音と共に車がロックされた。


駐車場からエントランスに入り、オートロックの自動ドアを先輩は慣れた手つきで開けた。

肩を強く抱かれているせいで、逃げる事もできない。

そもそも先輩の手を振り払えるほど、強い力は出ないけれど……。


「先輩、私やっぱり……」

「警戒しなくていい。病人に手を出すつもりはないから」


私が言いたいのはそういう事じゃない。



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