木曜日の貴公子と幸せなウソ
「あー、オレ、そういえば萌にそんな事言ったっけ……」
「言いました」
おかしそうに肩を震わせて1人で笑っている先輩。
エレベーターが6階についた。
笑いながらもしっかり私の肩を抱いて、彼はエレベーターを降りた。
廊下を進み、一番突き当りの部屋に来ると、先輩は鍵をポケットから出す。
605号室。
表札は成瀬……。
「……成瀬」
思わずそれを読み上げると、先輩はなぜか勝ち誇ったような顔。
「この前言っただろ。オレは1人暮らし」
「じゃあ、何で婿養子って……」
「……ささやかな仕返し」
先輩はそう言って、鍵を開けて中に私を招き入れた。
ささやかな……仕返し?
首をかしげながら、玄関を見回した。
綺麗に整頓されている上に、先輩の他に人が住んでいる形跡が見られない。
女物の靴も見当たらない。