木曜日の貴公子と幸せなウソ
「まあでも、姉は家を出たから、一緒に住んでないけど」
「えっ?」
一緒に……住んでいない。
ホッとしたのもつかの間。
疑惑は、完全には払拭できなかった。
にぎられた拳に手汗がにじむ。
「それがどうかした?」
「あ、いえ。何でもないです」
「……変な萌」
クスッと笑った先輩は、ホットコーヒーに口をつけた。
ミルクも砂糖も入っていない、ブラックコーヒー。
こんなに苦い物を、よく表情一つ変えずに飲めるなっていつも思う。
年は二つしか違わないはずなのに、成瀬先輩がかなりオトナに見える事がある。
どんなに頑張って背伸びしても、手が届かないような……。
「……もうすぐ3年生は登校しなくなりますね」
「まあ、そうだね」
3年生は1月いっぱいで学校が終わる。