木曜日の貴公子と幸せなウソ
付けていないのには、何か理由があるのかもしれない。
私が前にやってしまったように、どこかに引っかけて壊してしまったとか。
何らかの理由で外さなければならない事があったとか……。
そんな風に都合のいい言い訳を考えているなんて、空しくなる。
どんな言い訳なら、傷つかないで済むのだろう。
自分の事を必死に守ろうとしている事に、泣きそうになる。
「ゴメン、急用で行かなきゃならなくなった」
電話を終えた先輩が席に戻ってきて、申し訳なさそうな顔で言った。
カップにはまだコーヒーもキャラメルマキアートも残っている。
「萌はゆっくりしてて。本当にゴメン。この埋め合わせは必ずするから」
「あ、気にしないで……」
マフラーを巻くと、先輩はカバンを肩にかけてカフェを出て行った。