木曜日の貴公子と幸せなウソ


冷たい空気が容赦なく襲ってくる。

カフェの中の暖かい空間とは違って、外はかなり寒かった。


「……あ」


駅に向かって歩きながら、ある事を思い出す。

そういえば今日は、楽しみにしていた文庫本の発売日。

電車に乗る前に、本屋に寄って行こう。

この駅ビルの本屋は、かなり大きいからすごく便利。


「……え」


本屋は3階。

上りのエスカレーターに乗ろうとして、少し上を見たら、さっき別れた成瀬先輩がエスカレーターで上に向かっていた。

私の前に何人もの人がいて、先輩がこちらを振り返らない限りは私の姿は見えないだろう。


さっき、誰かからの電話で、急用ができたと言っていた。

もしかして、その電話の相手と待ち合わせ?

心がモヤモヤするけれど、足は勝手に動き出して、エスカレーターに乗ってしまった。


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