アルマクと幻夜の月
「……おまえの、せいだ…………」
しゃがれた声を作り、アスラは領主の首にかけた手に、ぐっと力を込める。
とたん。
領主の首が力なく傾げ、その巨体が床に倒れこんだ。
「………………ありゃりゃ」
予想をはるかに上回る成果に、アスラはつぶやき、呆れ顔で苦笑した。
「気絶しちゃったよ」
それから窓の方を見やると、
「もう出てきていいぞ」
と、声をかける。
すると、窓の外から黒馬に乗ったシンヤが現れた。
黒馬のイフリートは器用に体をひねってシンヤを部屋の中に放り投げると、自分も部屋に入ってきながら人の姿に戻った。
そして「痛ぇよ!」と文句を言うシンヤにかまわず、アスラの元に駆け寄る。
「怪我はないか? なにか変なことをされていないだろうな?」
珍しく慌てたように言うイフリートに、アスラはひらひらと手を振って「大丈夫」と答えた。
「あまりの気色悪さに途中何度か心が折れかけたけど、まぁ、予想以上にビビってくれたみたいで満足してるよ」
気絶した領主を指差して、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。