アルマクと幻夜の月

「じゃあ――」


じゃあな、と。

言いかけて、アスラはしかし、言葉を続けず黙り込んだ。


イフリートが、静かにしろというように、人差し指を唇の前で立てていたからだ。


「足音がするぞ。かなり大勢の」


言われて耳を澄ましてみれば、なるほど、確かに遠くからバタバタと騒々しい音が聞こえる。

加えて、人の怒鳴り声。


何と言っているかは、遠くてほとんど聞き取れない。

しばらく耳を澄まし、かろうじて「見つかったか!?」と男が怒鳴るのを聞き取って、アスラは青ざめた。
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