僕を止めてください 【小説】
ドラッグストアに着いて、フェルビナク入りの比較的安い、知らない製薬会社の消炎鎮痛プラスターを購入した。パップ剤よりプラスターのほうが薄くて密着性が高く取れにくい。だが、大手の製薬会社の薬剤の濃度が高いものは効き目が良くてそれなりに値段が高いものである。並んだ商品をしばらく見比べて、入り数が少なく値段が安いものを選定した。いつもなら用事のないコーナーであった。内服の鎮痛剤が残り少なくなっていたので、それも一緒に購入した。冷房の効いた店内から出たくなかったが、長居するのも疲れるので帰路に着いた。途中コンビニでサンドイッチを購入し、部屋に帰った。自分で晩御飯を作る気力はなかった。
帰宅後ようやくスエットに着替え、冷たい牛乳とコンビニのサンドイッチで夕飯を終わらせ、だるくて起きていたくなくて、先に歯を磨いてからメガネを外し、またベッドに戻った。
こんなピンチは久しぶりだ…どうしよう。
仰向けで手の甲を額に置いて目を閉じた。なにか圧倒的に足りない。情報が足りない? 認識が足りない? それとも気力が? この職場に来てから、事態をコントロールしようとすればするほどドツボにハマっていくような気がした。仕事自体は前よりずっとやりやすいのに。
前は職場が不安定で、僕個人は安定していた。今は逆だ。仕事や上司や同僚には恵まれているが、自分の不安定さが日に日に大きくなっていく。質量保存の法則みたいなものがあるのかな。安定度保存の法則とか。定数nは変わらなくて、公務とプライベートの安定比率だけが変わっていくのか。シーソーゲームだな。そうしたら、職場に問題を少し多くして、比率を変えるというのはどうだろうか?
たまにはズル休みとかしてみようか…
実際このだるさでは、明日の朝普通に起きられるとも思えないし。いままで何の文句も言わずに皆勤で出勤してるんだから。仮病とかいいかもな…仮病というか、今のだるさに別の原因と理由を付けるということだ。月曜日に溜まった分析とかを僕無しでやって、忙しくて皆で僕の文句を言ってくれればいい。少々肩身が狭くなれば…それで様子を見ようか。
というわけで、僕はとんでもなく逃避的な、全く違う妄想的な切り口を想定してみた。これは敢えて問題に触れない、というアクロバティックな選択だったと言えよう。幸不幸のシーソーがこんなことで反応してくれるのか…明日起きて、まだそのただの思いつきが生きてたら考えよう。夜ごとに考えは生まれては死ぬ。今日はもうこれ以上この後に及んで何かを考えることが苦痛だった。