僕を止めてください 【小説】
たいがいの不調なら休み明けにはなんとか回復しているはずが、今回ばかりは朝起きても体調、精神共に殆ど変化がなかった。ぐったりしていることにまったく変わりがない。傷をいじくったせいもあるのか、それとも慣れないことをして疲れきったのか、発作がひどすぎて抜きすぎたのか、崩れた基板を立て直す糸口が見つからないからか、思考を使いすぎたせいか、その全部か。また薬が切れていた。痛い。こんなに長くひどく痛むのは本当に久しぶりだった。自業自得だ。
とにかく身体を無理やり起こして水を飲み、薬を飲み、それからトイレに行き、そしてベッドに戻った。なんの未来への展望もなくて、目の前にブラインドがかかったみたいな感覚がしていた。無気力ってこういうことを言うのかな。なんだかあまり感じたことのない感覚だった。
自分に気力があるとかないとかそういうことを思ったことがなかったが、こうしよう、とか、こうすればどうにかなるだろう、という対策が立たないことが初めてだったからかも知れない。ずる休みじゃなくて、本気で休みたかった。仕事が嫌なわけではなく、身体が思うように動かない。ちょっと変だ。ほんとに疲労感だけなのか? よくわからないまま、とにかく堺教授に電話することにした。
“だるくて動けない、風邪かも”と説明すると、堺教授は“岡本君が病欠なんて珍しいねぇ”と言って、特になにも文句もなく“お大事にね〜”と言われただけだった。明日の朝、また連絡します、と伝えると“はいはい、よろしく”と言われ、呆気無く病欠の連絡は終わった。とてもじゃないが職場の安定感のシーソーは揺らがないような感じがした。運動量が簡単にダンパーに吸収されたような気分だった。堺教授の底なしの衝撃吸収力を垣間見た気がした。NASAでも開発したんじゃなかろうか。
職場に連絡したら安心したので、何はともあれ寝ることにした。頭の隅に昨日買った消炎鎮痛プラスターがチラついた。今日は出番がなさそうだ。せっかく買ったのに。とは言え明日に傷が無くなるわけでもない。どうせ使うだろう。同僚が仕事をしている時間に僕は再び眠りについた。現実逃避かも知れなかったが、いくらでも眠れそうな気がした。
遠くでなにか音がする気がした。携帯が鳴っている。部屋はもう薄暗かった。何時かわからないが取り敢えず枕元の携帯を手探りで取った。目が開かなかったのでなにも見ずに電話口に出た。
「もしもし…岡本…です」
「ああ、俺」
幸村さんの声だった。