僕を止めてください 【小説】
「まぁ、しばらく肉を食え。貧血とか傷の治りとか…ほら、その他、あるだろ?」
と、今回は強引にカツ丼を一緒に食わされた。別になにを食べてもいいが、食べきれなかった。僕の残りを当然のように幸村さんはきれいに平らげた。ちなみに“その他”とは言い方からすると精液のことらしかった。確かに出なくなるまで出すなどということは今までなかったから、それもこのぐったりに関係しているだろう。考えてみれば、幸村さんの前に穂刈さんにも出されてたわけで、いままでこんなハードな性行為は初めてだったと遅まきながら気がついた。
「…確かに」
「な?」
「そう考えると、タンパク質もですが亜鉛とか枯渇してるかも知れません…栄養士の先生も、鉄もだけど男は亜鉛を十分取るようにと言われましたし」
「まぁ亜鉛は大事だな。牛肉のほうがいいらしいぞ。ああ、帰りにコンビニでマカでも買ってやる。あれ効くから」
幸村さんは世話焼きの先輩のようだった。
「ああ…すみません。後で調べて効率的な方法考えます」
「岡本って陸と違った意味で世話焼けるよな」
「…不本意ながら…今は否定は出来ない…ですが…」
最近あまり連絡のない佐伯陸のことを久々に思い出し、一緒にされたくない気持ちでいっぱいになった。
「いや、幸村さんが単に僕に世話焼かないでいられたらそれでいいんですが」
「えぇ? いやないだろそれ」
「だって、ある程度いままで僕やってきましたし…幸村さんがいなければ僕自立してたし」
僕がそう言うと、幸村さんはちょっと黙った。なにか思い当たる節でもあるのだろうか。
「これを始めたのはどう見ても幸村さんでしょう?」
それを聞いた幸村さんはグッと言葉に詰まったみたいな不満な顔をしていたが、しばらく指でタカタカ机を鳴らして考えているふりをして、そして観念したように両手をカツ丼の丼の両脇にドンと置いた。
「ああ〜もう! わかったよ…世話焼きたいんだよ俺が!」
「僕がなんの問題なくても?」
「問題ない? そんなことあり得るかよ」
「いえ、仮にです、仮に」
「問題ないから世話焼かないって…発想が違うだろ。問題があろうがなかろうが生きてる限り世話を焼くことなんて毎日毎日なんかしかあるだろ。そうじゃなかったらこんな集団生活なんて人類選んでねぇって」
「いつもながらナチュラルに健全な感覚ですね…感心します」
「そりゃどうも」
「僕の発想ではとんと思いもつきません」
「だろーよ。他人には興味ないし。放っといたら死にそうだもんな、岡本って」
「生存本能が…ないんでしょうかね…多分」
「だから放っておけないんだろーが」
「放っといたらいい」
「死ぬじゃん」
「いいじゃないですか」
「お前さ、自分がいつも逆のことしか言わんのにここでそれ、言うかよ。むっかつくなぁ。幸村さんが死なないようにするとか言いやがって…そんじゃ俺も死んだっていいじゃないですか。放っといたらいい。何か問題でも?」
最後に僕の口真似をして、幸村さんは盛大に僕の揚げ足を取った。言葉通りムカついたのだろう。
「それ、僕のマネですか」
「耳タコですから!」