僕を止めてください 【小説】
そのあとほんの少し沈黙した。お互い言いたいことをお互いの耳に入れて、気が済んだのだろうか。
「…明日は仕事出れるのか?」
幸村さんは現実的な話にレールを修正した。実際的なことは答えやすかった。
「多分。亜鉛飲んで様子見ます」
実際的な対処法は行動に移しやすい。
「申し訳ありませんが、帰りにドラッグストアに寄って頂きたいんですが」
「ああ、いいぞ。いつもそういう風に頼めばいいのに。ちょっと寄って抜いて下さいって」
「え…」
「その程度の話だってこと」
「…え」
「返事は?」
「いや、それはないです」
「いいじゃねぇか」
「説明要りませんよね」
「…わかったよ。まだ結論出てないんだろ? 待つよ」
呆れたように幸村さんは言って、ため息をついた。わかってるようではあるのだが。
「すみません」
「引っかかんねーな…岡本は」
「釣だったんですか」
「間違えて、はい、とか言うかなって」
「間違えて答えるくらいなら悩んでませんよ」
「そうだな…じゃ、行くか、そろそろ」
「はい」
結局また無理矢理おごられて定食屋を出て車に乗ると、初めて寄る郊外の大きなドラッグストアに停まった。亜鉛と鉄のサプリを買い、レジを出ると、幸村さんが隣のレジでドリンク剤を箱買いしていた。レジの人になにか指示を出した。
「ああ、袋、2つに分けてもらえる?」
「はい」
レジ袋を2個下げた幸村さんの後について出口に向かった。再び車に乗り込んで、僕のマンションに向かった。
いつものパーキングに車を入れた。これはうちの部屋に上がるということだ。平日なのに、僕をどうにかしようというのだろうか。それはマズい。とは言うものの、来ないで下さいとも言えず、大きなレジ袋を1個下げてマンションに歩いていく幸村さんの隣を歩いた。
部屋に着くと、いつものようになにも言わずに幸村さんが上がってきた。良いような悪いような複雑な気分になった。