僕を止めてください 【小説】



 幸村さんはいつものように遠慮無く部屋の真ん中までツカツカ入っていき、テーブルにレジ袋の中のドリンク剤の箱を出して並べた。そして僕を呼んだ。僕はテーブルの前に座った。

「岡本、聞けや」
「あ…はい」
「こっちが夜飲んで寝てるうちに回復するヤツな」
「あ…はい」
「んで、こっちが朝動けない時にシャンとさせるヤツな」
「はい」
「逆に飲むと寝れなくなるから。まぁ、中身見りゃ、岡本ならわかるだろ」
「まぁ、大体は」
「取り敢えず今はこっち飲んどけ」
「詳しいんですね」
「仕事上な。無いとマズいこともあるしな。張り込みで徹夜とかザラだし。で、明日の朝はこれ、黄色いラベルの方。まぁ間違えねーだろ」
「はい。これなら間違えません」
「効かないものは薦めんから安心しろ」
「はい。わかりました。ありがとうございます。おいくらですか?」
「いいよ。やるからちゃんと飲んで元気になれ」
「そうはいきません。こんな沢山…ここんところ晩御飯までおごってもらってばかりなのに」

 さすがに20本もあるので、恐縮した。財布を出そうとして立ち上がろうとすると、幸村さんが僕の両肩を両手で押さえつけながら言った。

「いいから。なんかさせろ…何でもいいからさせろ」
「だって…そこまで」
「あのな、俺はずーっともの凄く不完全燃焼なんだって。岡本はなんっにも俺に言わねーし、頼まねーし」
「僕は迷惑掛けたく…」
「迷惑かけろよ…いや、岡本は迷惑だって思ってても俺は思わんから」
「ほんとに…どうして…ですか…」

 こんなに避けたり拒んだり傷つけてもこんなことまでしてくれることが、僕には理解できなかった。

「答え出てないのに…僕はどうしていいかわからないのに…僕が幸村さんにできることなんか全然ないのに」
「ほうほう、それは俺には都合がいいぞ。この隙にしたいことしてやる」
「やめてっ!!」

 僕は幸村さんの腕を振り払い、思わず叫んでいた。なにも決まっていない僕は混乱した。付け焼き刃でもこういう時に帳尻の合う方策を考えておけばよかったのに。それすらも出来なかった頭の回らない自分を呪った。
 
「おい…俺は、本気で嫌われてるのか…?」

 幸村さんが真面目な顔になった。ああ、また誤解されてる。なんて厄介なんだ。僕は言い尽くしたはずのそれをまた幸村さんに言うハメになった。





 



< 500 / 932 >

この作品をシェア

pagetop