キスから始まる方程式
「これって……指輪か?」
桐生君が小さなそれを人差し指と親指でつまみ、太陽の光にかざすようにして下から覗き込む。
太陽の光を浴びて指輪に付いている飾りが、赤くキラキラと輝きながら桐生君の瞳に反射した。
「本物じゃ……ないよな。 おもちゃだろ、これ?」
「うん……そうだけど……」
心の中では先程から「早く返して!」と叫びまくっているのだが、それをうかつに顔に出すわけにはいかない。
なんとかこれ以上突っ込まれないうちに返してもらおうとするのだが、桐生君の中で何かが引っかかるらしく、なかなかこちらに渡してもらえない。
「あのさ……そろそろ返してもらっても……いいかな……?」
「……やだ」
「!? な、なんで!?」
業を煮やした私は、なるべく怪しまれないようできるだけ冷静に催促したのだが、やはり桐生君の目はごまかせなかったようだ。
手帳の時同様、二つ返事で素直に返してはくれなかった。