キスから始まる方程式
翔の背中ってこんなに大きかったっけ? それにすごくあったかい……。
心地よい温もりに、トクン……トクン……と心臓が音を奏でる。
翔の匂い……なんだかすごく懐かしいな……。
香水とは違った翔の懐かしい香りが私の鼻先を優しくくすぐる。
男らしいけれどけっして嫌ではないその香りは、昔から無条件で私を安心させてくれる一種の安定剤みたいなものに近いのかもしれない。
「他にどっかケガしてないか?」
「うん、大丈夫」
「そっか。なら良かった」
数時間前の私には想像すらできなかった翔との極普通の会話。
考えてみれば翔とまともに会話を交わすのは、実に四か月ぶりのことだった。
「ねぇ翔?」
「ん?」
「私、重いでしょ」
「えっ? いや、そんなに重くねーよ」
「ほんとに?」
「まぁ、軽くはねーけどな」
「んもうっ、翔のバカっ」
「いてっ、こら七瀬っ、んなに暴れんなって!」
翔の頭を右手でポカポカと叩きながら、昔のようにじゃれ合う私と翔。
こうして普通に接していることがなんだか不思議で、もしかして夢の中のできごとなんじゃないかという気さえしてくる。
本当にそんな気がしてきて慌てて頬をつねってみるバカな私。
「いたっ!」
「ん? どっか痛むのか?」
「ううんっ、大丈夫。なんでもないっ」
心配そうに聞いてくる翔に頬をさすりつつ、アハハと笑いながらごまかす。
ジンジンと熱を持ったように痛む頬が「これは現実だよ」と私に訴えているような気がして、なんだか妙に嬉しかった。