キスから始まる方程式
「桐生君には心配かけたくないの。もちろん桐生君だけじゃなくて麻優や他の友達にも迷惑かけたくないから言ってないんだけど……」
「心配ってお前……。もし俺がアイツの立場だったら、彼女が辛い目にあってるのにそれを隠されたままにされてるほうがよっぽど嫌だけどな」
「……っ! そう……なのかな……」
翔の男性目線の意見に、虚をつかれたように心がハッとなる。
けれど次の瞬間私の脳裏に蘇ったのは、つい先日体験したばかりのすれ違いの連続から生じた不安な日々。
そんな私としてはもうこれ以上桐生君との間に心配の種を増やしたくなくて、どうしても桐生君に打ち明ける気にはなれそうもなかった。
「でもやっぱり私……桐生君には言えないよ……」
「…………」
いつもと違う弱気な私の発言に、困惑したように翔が黙り込む。
しばらく何事か思案していた様子だったが、やがて「まあでも」と言葉を続けた。
「七瀬がそれでいいって言うんなら俺はこれ以上何も言わないけど」
「うん……。せっかく心配してくれたのにごめんね……」
「いや、俺はべつに心配なんて……っ」
なんだか突然焦ったような照れた声を出す翔。
? ……翔、やっぱりなんかちょっと変……。
またしてもおかしな場面で動揺する翔を不思議に思ったのだが、再び歩き始めた翔はその後はもう、保健室に到着するまで口を開くことはなかった。