キスから始まる方程式
「これっ!」
「? ……っ!」
最初はハンカチを見て首を傾げていた翔だったが、やがてその意味がわかったのか、なぜか顔を赤らめながら狼狽えるように一歩後ずさった。
「い、いいっ! これぐらいなんともねーよっ」
「えっ? でも……」
より一層頬を紅潮させながら、ゴシゴシと乱暴に手の甲で汗を拭う翔。
ハンカチを差し出したままそれをしまいあぐね困惑している私に、ちょっと怒ったような声で翔が言葉を発した。
「お前、あんまアイツ意外の男に優しくすんじゃねーよっ……」
「へっ? 優しくって私はべつに……。ハンカチくらいなんてことないと思うけど」
翔の言葉に目を丸くしながら弱々しく反論する私。
そんな私に更に苛立ったように翔が声を荒げる。
「俺だって一応男なんだから、ちょっとは……その……考えろよ……」
「? 翔、言ってる意味がよくわかんないよ」
おんぶはいいのにハンカチはダメ。
翔の言っていることがあまりにも矛盾し過ぎていて、考えていることが全くわからない。
それに私は半年前までは翔を“男”として一番意識して、誰よりも大切に想っていたのだ。
むしろ翔のほうが私のことを、女としてちゃんと見てくれなかったのに……。
昔の自分の気持ちを思い出し、ツキン、と心の奥が軋む。
本当はそのことを翔に伝えたかったが、今更それを言ったところでどうなるわけでもない。
気まずくなるのは目に見えている。
それになによりも……
翔には南條さん、私には桐生君がいるのだから……。
私は下唇をキュッと噛み締めると、受け取ってもらえなかったハンカチを握りしめ元通りポケットへ突っ込んだ。