キスから始まる方程式
『たまたま』……。そうだよね。私の気持ちなんて翔に届くはずないよね……。
届いていたら、こんなふうにはなっていなかったもの……。
先程の嬉しさが嘘のように消え、途端に切なさが再び私の心を支配する。
「それじゃあ」と、肩を落としてその場を離れようとする私に
「ちょっと待ってろ」
「?」
翔が部屋の奥に消えたかと思うと、すぐにまた現れ右手を上げて大きく左右に振った。
「?……何だろう?」
右手に何かを持っているのはわかるのだが、遠い上に暗すぎてそれが何かまでは確認できない。
「投げるから受け取れよっ」
「えっ? わっ、わわっ」
返事をかえす前に投げられたそれを、慌ててどうにかキャッチする私。
「ナ~イスキャッチ!」
「っ!」
そう言って翔が、最高の笑顔で右手の親指を私に向かって立てた。
ドキンッ
やんちゃな子供みたいなその笑顔に、心臓がすぐさま跳ね上がる。
胸がキュンとなって、今にも思いが溢れそうだった。
「じゃーな! 近いけど気を付けて帰れよ」
「うんっ、ありがとう。また明日ね!」
手を振って翔に別れを告げ、並びにある5軒先の自分の家へと歩き出した。