線香花火
* * *

「…体力、底なしね…。」
「体力勝負なところあるからね、この仕事。」
「あっそ。」

 聡太に背を向けて寝ようとすると、そのまま抱き寄せられる。首筋に鼻を埋められるとくすぐったくて仕方が無い。

「もう無理だからね?」
「わかってる。もうこのまま澪波のこと感じて寝るから大丈夫。」
「言い方を自重しなさいよ、もういい年なんだから。」
「だって嬉しいから。澪波を抱いて眠れるなんて。」
「ちょっと!暑苦しい!」
「エアコン入れるから我慢して。」
「離す気はないわけね。」
「あるわけないだろ?何が悲しくて離す?」
「ごめん、愚問だった。」
「わかればよろしい。」

 耳元で深呼吸をする音が聞こえる。それもそれでくすぐったいからどうにかしてほしい。

「ねぇ。」
「ん?」
「耳元で呼吸されるとくすぐったい。あんたの髪も柔らかいから首筋にあたるとくすぐったいし、眠れない。」
「それは…解決難しいな。離れないと解決しないけど、離れたくないし。」
「わかった。じゃあそこは譲る。でも手はいい加減にして。あんたが胸フェチなのはわかったけど、触り過ぎ。」
「だって澪波、思ってたより胸あるし、触り心地最高なんだもん。」
「変態!」
「いてーっ!何もつねることないじゃん!」
「手、止めないあんたが悪い。」
「容赦ないなぁー澪波ちゃんは。じゃあ俺からも一つお願いしていい?」
「…なによ。」
「こっち向いて寝て。」
「なんで。」
「…澪波の顔を見て眠りたいから。」

 自分が聡太の真剣な声には弱いことを思い出す。仕方ない。手の悪戯が止まったのだから、このお願いをきいてあげなくては不平等というものだ。そう思って腕の中で向きを変えた。背中にぎゅっと回った腕がさらに身体を引き寄せる。肌と肌が直に体温を分け合う。

「寝顔は不細工だよ、より一層。」
「大丈夫。不細工でも澪波なら可愛い。」
「どんな理屈よ、それ。」
「…おやすみ、澪波。」

 そう言って落ちてきたキスは、名残惜しそうにいつまで経っても離れない。眠るんじゃなかったのかと突っ込みをいれたくなるが、気持ちがいいのはこっちもなので止めない。

「…っ…おやすみのキス、じゃないの?」
「眠れない、のキス、…かも。」
「…バカ。」

*fin*
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