ためらうよりも、早く。
しかしながら、高級レストランの個室には不似合いの音と威嚇はやたらと迫力が増す。
降参と言わんばかりに小さく両手を上げた相手に、仕方なく小気味良い関節鳴らしを止める。
「待った。殴る前に言わせてくれ」
「あら、東条の仮面は取ったの?」と、皮肉たっぷりに返してあげたのは私がS属性だから。
「俺は東条の駒使いだって何百回も言っただろ」
「は?アンタが東条のぼろ雑巾だろうがどうでも良いわよ」
「頼むから、拓海に会ってもそれだけは言うなよ……。
柚ちゃんの了承得た瞬間、アイツは容赦なく俺をロンドンに送りにするぞ。
アイツは蘭ちゃん以外、容赦ねえ。いや、俺だけか……?」
「ふーん。だったら、“ブロンド美女と浮気し放題になるからさすがに今は止めてくれ”とでも言えば?
蘭さんひと筋の東条社長なら、二つ返事で了承してくれるはずよ。それが風船男の陳情でもね」
「なるほど、……その返しもアリか」
ここで問題なのは、自らが苛立ちを増幅させる原因だと露ほど感じないこの男。