ためらうよりも、早く。
メガネをかけた尭はいつも表情を変えない。……いや、昔から年上を敬わない態度もそのままか。
「ふふ、そんなの知らないわよ。私は独身でいたいし、言いつけを守るような娘であったこともないわ。
何より、のんと尭がくっついてくれて朝比奈家は安泰ね。——そうでしょ?“近しい未来”の義弟くん?」
口角を上げて意地悪く笑いながら言うのも、さっきの仕返し。……折角だし、義姉からの餞にしておこうか。
ちなみに、朝比奈 忠頼(タダヨリ)といえば、私や妹からすると口うるさいくせに肝心なところで押しの弱い父だ。
しかし、一歩外に出ればこの会社を仕切る辣腕社長として、アパレルの世界では結構その名が知られている。
そのため私が入社した当時は、“社長令嬢は重役の立場に納まって胡坐をかくのが目的らしい”、と散々な言われようだった。
それは鬼と呼ばれる昔馴染みである、尭にしたってまた然り。
入社については私が大学在学中に誘っていたのだが。そんな縁故を知る者からのやっかみがひどく、彼もまた足を引っ張られることも間々あったよう。