ためらうよりも、早く。
そんな2人の関係といえば、尭の画策によって付き合い始めたと同時に周知の事実であった。
社内の人間からすれば、いずれこうなるのも想像に容易いこと。
上司と部下という関係性からどうなんだ、と小言を言っていたのはオッサン連中のみ。
その煩わしさも、今の尭には黙らせてしまえるだけの力があるのも私はよく分かっている。
ただ彼の場合、仕事より実家の問題に気を揉んでいたのかもしれない。
尭の実家は代々続く名家。——つまり、やんごとなき家の息子だ。
さらに政治家を排出する家系でもあり、彼の父は現職の国会議員にして大臣を務めている。
ちなみに私や祐史の家は一部上場企業を経営しているので、財力はあるがその名前にさほど効力はない。平たく言えばそんな違いだ。
しかし、尭は小さな頃から実家のことをひどく嫌っていた。
尭のお母さんはおっとりとした優しい人で、家によく尭を連れて遊びに来ていた。
でも、次男が生まれてからはその機会もめっきり減った。いや、いきなり疎遠になって私の母が悲しんでいた。
のちに大きくなった尭が話してくれたのは、父親と祖父母に不要な外出を咎められたのが発端であったということ。
同時に、父親は外面の良さを武器に再選を重ね、現政権の大臣に納まっているとも。
その裏でマンションに愛人を囲っていると分かっていながら、そんな男や一族郎党に頭の上がらない母親が理解出来ないと零したのだ。