ためらうよりも、早く。


ニヒルな笑みをたたえる男に残酷なまでのひと言を吐かれ、心臓にズキリと鋭い痛みを感じた。



目の奥の痛みは眼精疲労。どんより暗くて重い身体は疲れのせい。切り返せないのは眠いから。


心の中で呪文のようにつらつらと言い訳を考えつつ、弱気な感情を振り払うのが精一杯なんてアリエナイ。


まるで、クールを武器に装ってきた鋼鉄の仮面を奇襲攻撃によって簡単に引き剥がされてしまった気分。


そのまま素顔をさらしながら呆然と佇む私に対し、奪った仮面を持って嘲笑う男の顔はクセ者そのもの。


もはや裸一貫のままにせめてと視線を逸らさずにいるが、この状況で攻撃材料はどこにも見当たらない。



「言わないなら聞く」


するとこの状態を先に脱したのは、デスクから立ち上がって姿勢を正した男の方だった。



口を噤む私に背を向けた彼は、デスク近くにある応接スペースに歩いて行くと、その革張りソファにスプリング音を立てて座った。


それからアクションを起こさないヤツに根負けし、デスクからソファへと移動することにする。


ガラス製の低いテーブルを挟んで、向かい合うように対の2人掛けソファを配置してある。


勿論ヤツが座る手前のソファではなく、反対側を目指したが。その途中で、パシリと手首を掴まれてしまった。



「ここに決まってんじゃん」と、少々の苛立ちを含んだ声が室内に響く。


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