ためらうよりも、早く。
これまでの思い出と感情が消えるには直近すぎて難しい。変なところが強くないのは玉に瑕だ。
「……うぅっ、」
堪えるほどに漏れる嗚咽に屈し、隣の男に背を向けてしまう。
そのまま顔を伏せれば、大粒の涙がポロリと膝に落ちていった。
もう現れなくて良いのに。捨て置いて欲しいのに。いっそ、存在ごと忘れてくれて構わなかった。
都合が良くても、身勝手だと言われても、こうなるのは必然だったから逃げ回ってきたのに。
それでも私は、あの状況が崩れるのが嫌だった。今だって、置き去りにされたくないと真逆なことを思ってもいる。
憎らしいのと同じくらいに、愛しい。素直じゃないことを許してくれる、唯一の存在。
——こんな厄介な男は、この先も絶対に現れないだろう。