ためらうよりも、早く。
「でしょう?今日のアレは絶妙なタイミングだったんだから。
そもそも律儀に週末に挨拶しに行くって決めるから、のんの動揺っぷりは半端なかったわよ?」
「ええ、それが狙いなんで」
「アンタ鬼ね」
「そのまま“祐史さんを甚振る鬼畜な柚希さん”に返します」
「……どうして此処で、“風船男”の名前が出るのかしら?」
のんの慌てふためく姿といえば、それは下手なコメディより愉快なものだと知っている姉としては同意するものがある。
だがしかし、今はその光景を浮かべる余裕は微塵もなかった。
上手く切り返せたのは社会経験がものを言う。表面上貼りつけた笑顔は、尭だと嘘ととうに見破られているに違いない。
現に、「話をそらさないで下さいよ」と忠告を受ける始末。
しかし、私は知らぬ存ぜずであろうと正面に向き直り、ドアに視線を向けてしまった。