ためらうよりも、早く。
プライドの高い私が落ち着くまで手出しはせず、隣でジッと耐え忍んで待っているのだと。
大切の枠に入る者に対し、普段ならば真っ先に手を差し伸べる男にとっては苦行に違いない。
常に自信に溢れた黒々とした瞳も、今はどことなく揺らいで見えるのは欲目だろうか……?
「……見苦しいとこ見せて、その、……ごめんなさい。
ちょっと仕事と私生活の両方でゴタゴタしていたから、……なんて、思いきり八つ当たりだったわね」
切り出しに手こずった感じもするが、おおよそ言いたいことは叶った。
ふふっと自嘲笑いを浮かべたのは、この場の重苦しさを一掃したいがゆえ。
「今日限りだから諦めてくれるでしょ?」
たとえ負け惜しみであったとしても、この男に何も望むものはないのは事実。
さすがの私も欺瞞に満ちた心境で、お人好しの胸に身を預けるつもりはさらさらない。
それでもこの先、また同じように情愛を掛けられれば、何かの弾みで愛情が露見することは確かだった。