ためらうよりも、早く。
だが懲りないヤツはムニムニと人の頬の弾力を楽しんでおり、メンドウなものは放置と決め込む。
「そんな顔してると、幸せが逃げてくぞ」
そこで手を引いた祐史の失礼な発言に、私は呆れたような視線を返すとともに脚を組んだ。
「アンタが人生に関わると決まった時点で、私の幸せを運ぶ筈の天使は音速で逃亡していったわ」
「ちびっ子柚ちゃんならその天使をがっつり捕獲したんじゃねえの?」
「……だとしたら、私の人生はこれほどメンドウに進まないわよ。
その分、軌道修正するだけの力は備えてきたから問題ないけれど」
自嘲笑いを浮かべれば、弱さを垣間見せた気がするが仕方ない。……もちろん可愛くなくて結構、これが私だもの。
たった1フレーズを口にも出来ず、積年の想いにけりもつけられずにいるみっともない女であるのは事実。
ましてその相手が隣の男。これが自分でも納得出来ずにいるのだが。……まあ、どのみち何もかもが遅過ぎた。
感情の読み取れない顔を前に、言い知れぬ懐かしさが込み上げてくる。この真っ黒な瞳はいつでも心を掻き乱してくれたな、と。
「一度口にしたことには責任取りなさいよ?——だから、これで現れるのは最後にして。
昔馴染みの縁切れを言い渡されたことだし、アンタの結婚式は欠席するわ。あ、その前に招待されてなかったかしら?
こちらも招待状を出さないから安心して良いわよ」