ためらうよりも、早く。
頭ひとつ高い男の発言に恨めしく見上げるが、その隙に背中に手を回されてしまった。
「は、な、せっ!」
「聞こえない」
バタバタと暴れてみるが、相手は聞く耳を持たない男。
ツンとした声で拒否された挙げ句ホールド力まで高まり、これ以上は窒息しかねないと押し黙る。
ふわり、と鼻腔を掠めるこの香りに体温と鼓動をダイレクトに感じては、手も足も出せない。
ああ、せっかく私が忘れようとしていたのに、悉く人の努力を無にしていく。
そんな男だから、どうしようもなく惹かれていたのか。——私こそ、ツマラナイ女のようね。
「柚希、話がある。……ずっと言えなかったことが」
勿体振ったような言い方は、祐史の緊張度合いが伝わるには十分だった。
「な、によ。縁切れなら、もうしたでしょ、」
そう紡いだ自らの声音の弱々しさにうんざりするが、鼻をすすりながら辛うじて涙を耐えた。
「それじゃない」と淀みなく言われ、閉口してしまう。