ためらうよりも、早く。
「戦略会議が19時から始まりますので、どうぞお忘れなく」
「ええ、大丈夫よ。“オジさま方と有意義なファッション談議”をするから」
「せめて談議になれば良いのですが……。
僭越ながら、社内を見渡しても社長と中嶋チーフ以外、柚希ディレクターには敵わないと存じます」
「そう?でもね、ふたりなんか、目じゃない男もいるのよねぇ……」
「ふふ、一度ご尊顔を拝見したいですね。——柚希チーフにそんな顔をさせる男性を。
では、ささやかながらご武運をお祈りして失礼いたします」
「ええ、ありがとう」
笑顔で頭を下げると踵を返す彼女。ドアを締める所作まで抜かりなく、静かに扉が閉められた。
入社4年目の彼女は温厚な性格ながら、じつに判断力に長けていると思う。スケジュール管理やクライアント等への気配りも思慮深い。
もちろん私に対しても、今日のようにデスクワーク中にはタイミング良くお茶を運んでくれる。
これくらい自分でやるからと言っても、これは私の楽しみですのでと頑として譲らない。
日本茶にマグカップを使ったのも片手間で作業がしやすく、湯呑みよりも零しにくいから。
常に心配の尽きない、のんとは雲泥の差とは決して言わないが。毎回、感心させられるばかり。
秘書としては言わずもがな有能。それでいてよく気づき、核心を突くのが上手いときているので、このまま留めておくのが勿体ない。が、いかんせん本人はこの仕事が気に入っているとか。
あの子……、女性版・尭なのよね。——おかげで、自ら祐史を引き合いに出してしまったわ。