ためらうよりも、早く。
到着音とともに停止したエレベーターを降りると、毛足の長い絨毯が敷かれた廊下を早足で進んで行く。
優しく鈍い光が包むフロアの壁面には美術品が飾られており、仕事終わりの疲れた心を癒すようで足取りも軽くなる。
それらを尻目に到着したのは、このホテルの最上階にあるお洒落なラウンジだった。
友人いわく、最上階から臨む都内の煌びやかな夜景を目当てに、カップルのデート・スポットとして人気だとか。
平日にもかかわらず、カウンターとテーブル席はそれぞれ埋まるほど賑わいをみせていた。
間接照明の明かりは、窓の向こうの景色を見るのに最適だが、現代機器を酷使する目にも優しい。
「いらっしゃいませ」
ラウンジに足を踏み入れてすぐ、丁寧な若いボーイさんに“ある名”を口にすれば、笑顔で頷いた彼は小型マイクに小声で話していた。
そして、すぐ恭しい態度で案内されて向かう先はラウンジの最奥にある顧客専用スペースだ。
ドアの前にはスタッフが構えており、そこでボーイさんは一礼して踵を返していった。
「お話は承っております。
解除いたしますので少々お待ち下さいませ」
上客の名は敢えて告げないのは接客のセオリー。