ためらうよりも、早く。


綺麗な所作で頭を下げた男性は、扉脇のボタンを操作し始めた。


ここは上客のみが利用出来るスペースで、私が訪れたのはVIPのひとりと待ち合わせているため。


一枚の重厚なドアで隔離されたそこへ入室するには、マンションのオートロックのようにロック解錠が必要となる。


顧客はそれぞれID番号を持っているので自身で解除し、顧客が予め告げていた者に限って店側がドアを開けてくれる仕組みだ。


「お待たせいたしました。どうぞごゆっくり」

恭しい彼に対して私は、「ありがとう」と告げて開かれたドアをくぐり抜ける。


その瞬間、パタリと閉ざされたドア。扉の向こうは相変わらず賑わいをみせているが、ここは同じ店内とは思えないほど閑散としていた。


カウンターにテーブル席と、その奥に個室が2個設けられている。限られたスペースでも工夫された配置のため、人目を気にしなくて良い。



「柚希」

すると、店側に私の到着を知らされていたらしい待ち合わせ相手がドアの側で待っていた。


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