ためらうよりも、早く。
諦めの悪い子に重い口を開けば、ついて出るのは嫌味混じりの事実だけ。
感情任せのキツい口調だったため、明らかに八つ当たりをした自分を恥じる。
だがしかし、彼女が言葉を失ったのは、それが理由ではないらしい。
「ゆーくん、け、っこんする、の?」
「ええ、そうよ。出張帰りのついでに報告しにきたわ」
たどたどしく尋ねられ、平静を取り戻した私は淡々と肯定する。
その瞬間、どんぐりのような丸い目は光を失っていた。
「どーして!?ゆーくんの相手は、ずっと……っ」
はっとしてそこで口をつぐんだ望未。言葉を呑むように、両手で口を押さえている。
けれど二十数年も一緒にいるのだから、その続きが何かはよく分かっていた。
——“柚ちゃんじゃないの?”、と我慢しているはずだと。
ヤツの妹的存在の、のんが知らなかったことには些か驚いたが、にっこりと笑顔を浮かべて彼女の頭を撫でる。
「アイツと私はね、間違いを起こしたことが間違いなのよ」
「どういうこと?」
発言の意図が掴めないのか、首を傾げて聞く彼女の表情はあどけない。
「つまりね、この関係でいれば穏やかな波が寄せては引くだけ。
でも、何となくの好奇心と欲に負けて近づいた瞬間、たちまち波乱を起こすのよ。
風船男とセックスし終わったあとがまさにそう。大波が引いた波打ち際は静けさを取り戻しても、元には戻れない。
そのあとに残ったものといえば海が運んできた不要な残骸。そう、性欲に負けて2度もセックスしてしまった後悔だけが残るのよ。
恐ろしくも愚かな時間よね。互いの欲情を吐き出した以外、何ら利益もないんだから。衝動に負けて求め合っても、私たちの間には何も生まれない。
でも、そのお陰で学んだのよ。——今後、風船男とは他人と等しい……いえ、無関係であることが正しいって」