恋のカルテ
「なに読んでるんだ」
お風呂から出てきた先生は、リビングのラグの上で本を読んでいた私にそう声をかける。
「えと、研修医向けの参考書です。来週から内科なので少し勉強をと思って」
「ふーん、がんばるねえ。えらいえらい」
私の頭をなでながら、すぐ傍に座る。
「でも、そろそろ寝ようよ」
「私はまだ起きてます。先生は先に寝ていてください」
「……そう。随分警戒されてんだな、オレ」
「当たり前です」
何度襲われそうになったことか。
「……当たり前、か。高原はないの?」
「なにがですか?」
「性欲。健康な二十代ならあるのが普通だろ。まあ、今は淡白な奴らが多いらしいけどな」
またさらりととんでもない質問をぶつけてくるんだから、この変態医師は。
「……ノーコメントです」
「否定はしないわけね。じゃあ、その気になったら誘って。それまでは待てると思うから」
先生は「おやすみ」といいながら立ち上がると寝室へ入っていった。
「……全く」
待てると思うでは怪しいものだ。先生が寝入った頃にベッドに入ろう。そんなことを考えながら、私は参考書のページをめくった。