恋のカルテ
「いえ、まだです」
「でしたらそれをきちんと読んだほうがいいですね。どうして受け入れてもらえないのかが分かると思いますよ。ここ、開いておきましたからどうぞ」
「……そうですか。分かりました。ありがとうございます」
八木さんにお礼を言って私は山田さんが初めてこの病院を受診した時に持参した診療情報提供書に目を通す。
山田さんは胃部の不快感が出始めた時に全く別の医療機関の夜間救急を受診していたようだ。
その時に簡単な胃薬を出されただけで何も検査を勧められず帰宅した。それからも症状は慢性的に続いて紹介元であるクリニックを訪れている。その時の検査で胃がんが見つかりこの病院へと紹介された。
このような紹介の流れはよくあることで、それだけでは問題にはならないのだけれど、山田さんは一番初めに診察に当たった医師の診断ミスを指摘し、医療過誤で訴訟を起こす準備を進めていたようだ。
しかし、金銭面と勝訴の可能性の低さから断念した。そう書かれていた。
そしてその補足情報として、夜間救急で対応にあたったのが初期研修を終えたばかりの若い医者だったこと。山田さんはベテランの医師が診療にあたることを望まれていることがあった。
「……そうだったんだ」
だから山田さんは私が担当医として関わることを拒否した。気持ちはわからないでもない。でもみんな間違おうとして間違う訳じゃない。そうならないように万全を期して命を救うのが私たちの使命だ。
それでも間違いが起きてしまうのが医療の難しいところ。
私も見逃したかもしれない。けど、気付けたかもしれない。私にしかできないことがあるかもしれない。
ううん、かもじゃない。きっとある。だから逃げてしまったらダメなんだ。
佐伯先生が言っていたことは、そういうことなのだろう。