恋のカルテ
「八木さん、ありがとうございました」
私は八木さんにお礼をして、山田さんのカルテ画面を閉じた。
「いえ。結構大変な患者さんでしょ? 五十嵐先生はどういうつもりで先生を担当にしたんでしょうね」
「そう、ですね」
私もそう思っていた。でも、今は違う。大変だからこそ担当してみろ――そう言う意味なんだと思う。
それから八木さんは夜勤者への申し送りがあるからと席を立ち、やがて廊下には大きな配膳車が二台運ばれてきた。そろそろ夕食の時間なのだろう。
私は配膳の準備をするスタッフに山田さんの食事を部屋まで運ばせてもらえないかとお願いしてみた。
「配膳を手伝いたい? 先生が、ですか」
「はい。ダメならいいんです」
「ダメなんてとんでもない。人手がないこの時間はかえって助かります。はいこれ。山田さんのです」
私は手渡された夕食のトレイを持って山田さんの部屋のドアをノックする。
「山田さん、お食事です」
「はい、どーぞ」
部屋のドアを開けて中に入ると、山田さんは驚いたように目を見開いた。無理もない、私が食事を運んで来るなんて思ってもみなかったのだろう。
「こちらに置いていいですか?」
「え、ええ。お願いします」
私はベッドの上に跨ったオーバーテーブルに手にしていたトレイを置いた。
「では、失礼します」
「ありがとう」
私は軽く頭を下げると病室を出た。少し強引だけど、こうして毎日顔を見に行こう。まずはここから始めよう。
病棟の廊下を歩く私の足取りは、心なしか軽いような気がした。