恋のカルテ
それから私は何かと用事を見付けては山田さんの病室へと足を運んだ。
最初は警戒した様子で口を噤んでいた山田さんも、数日が経過した頃挨拶以外のことをぽつぽつと話してくれるようになった。それは天気のことだったり、今朝のニュースのことだったりするのだけれど、私にとっては大進歩だ。
「何かいいことでもあったのか?」
マンションのリビングでノートパソコンとにらめっこしていると、帰宅した佐伯先生が私の顔を覗き込んでそう言った。
「あ、お帰りなさい。そうなんですよ、担当患者さんが相談を持ち掛けてくれたんです。以前先生にも話した、私が担当になることを拒否した患者なんですけどね」
「ああ、食堂で話したときの」
「そうです。だいぶ時間がかかりましたけど、どうにか受け入れてもらえたようなんです。といっても、まだ医療行為はさせてもらえないんですけどね。その患者さんが今日突然、治療方針について私に相談を持ち掛けてくれたんですよ」
今日、いつものように山田さんの病室へ昼食を届けに行くと何やら思いつめた様子でとある雑誌を見つめていた。“全国名医図鑑”と題されたそれは、その名の通り全国の名医を診療科別に取材しているものだ。
山田さんの様子が気にはなったが、私は食事のトレイをいつもの場所に置いて部屋を出ようとした。
その時だった。
「ねえ、あなた」
山田さんは私を呼び止めた。
「はい。なんでしょう?」
「少し話してもいいかしら」
「ええ、もちろんです」
ベッドサイドに腰を下ろして山田さんの顔を少し見上げると、彼女は遠慮がちに口を開いた。