恋のカルテ
「正直申しますと、分かりません」
「……分からない。それはどういう意味?」
「山田さんは五十嵐先生が担当されてから、最善の治療を受けてこられたと思います。それでも手立てがないということは、そういうことなのかもしれません。しかし、この世の中にある全ての治療法を試したわけでもありませんし、これからもっと新しい治療法が開発されるかもしれません。ですから、現時点では治るとも治らないとも言えません」
「……だから分からないと?」
「はい。……でもこれは、私の希望を込めたただの理想論です。患者を惑わす最低の答えです。だから聞かなかったことにしてください」
私は山田さんに向かって深々と頭を下げた。
それから顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、目に涙をためた山田さんの顔。
「山田さん!」
「ごめんなさい、泣いたりして。あなたの意見を聞けて良かった。私……、このまま死にたくないの。まだ、治る希望があるならそれにかけてみたいと思う」
彼女はひとしきり泣いた後、一緒にセカンドオピニオンを受けられる医師を探して欲しいといった。
「私なんかでいいんですか?」
「他にはいないの。だって、あなただから話せたんだもの」
もうだいぶ前から考えてはいたけれど、お世話になっている五十嵐先生はもとより、看護師にも話せなかったという。
まだ、信頼関係を築けていない私だからこそ、打ち明けることが出来たなんて。なんて皮肉なことだろう。
でも、だからこそ山田さんの力になることができた。これは私にとって、大きな進歩だと思っていたのに。