恋のカルテ
「ただいま」
帰宅した圭人を玄関まで出迎えると、ひどく疲れた顔をしている。
「お帰り、圭人」
「今日は散々だったよ」
今日、新薬の採用を検討してくれると言っていたとある総合病院の医局長が、急になかったことにして欲しいと言ってきたそうだ。
「院内の権力者から何らかの圧力がかかったのだろう」
圭人は言いながら唇をかみしめる。
「僕には口ききをしてくれるようなコネなんてない。頑張って頑張って、ようやく契約まで漕ぎ着けたと思ったのに」
「……大変だったね」
それ以上かける言葉がなかった。圭人の苦労は痛いほどわかる。就職してからずっと、傍で見てきたんだから。
「ねえ加恋、風呂は?」
「わいてるよ、ご飯もできてる」
「悪いけど、飯は食べてきたんだ。風呂に入ったら早めに休むよ。明日も早いから」
圭人はカバンと上着を私に渡し、バスルームに入っていく。私はタオルと着替えを用意して、脱衣所のカゴに入れた。
「頑張って作ったのにな」
呟いてため息を吐く。せっかくの夕食も、これから一人で食べなければいけない。ダイニングテーブルに並べたおかずをみつめて私はまた、ため息を吐いた。