恋のカルテ
今日のお弁当は豪華版だ。きっと先生は喜んでくれる。
渡すついでに、昨夜全く進まなかったレポートのアドバイスももらえたらいいな。などと考えながら早足で階段を駆け下りた。
そして辿り着いた仮眠室のドアの前で、私はまたPHSを鳴らす。すると同時に着信音が鳴り出すのが分かった。
「やっぱりここにいた」
私が切るタイミングで鳴りやんだ音。確信を持ってそのドアを叩こうとした。その時だった。
ガチャリと目の前のドアが開き、中から出てきたのは外科の松谷未奈先生。
松谷先生は私を押しのけるようにして外に飛び出す。そしてその後ろから彼女を追うように佐伯先生が出くる。
「高原、おまえ」
先生は私の姿に目を丸くしながら、それでも松谷先生を追いかけた。
「待てよ、松谷」
腕を掴まれた松谷先生は、必死でそれを振り払おうとする。
「離してよ、朝陽。研修医がみてるじゃない」
「でも」
「大丈夫よ。自殺でもすると思った? 朝いちでオペが入ってるの、もう行くわ」
「……分かった」
佐伯先生が掴んだ腕を離すと、松谷先生は早足で階段を駆け上がっていった。
コツコツと鳴り響く先生のヒールの音。徐々に遠ざかり、やがて訪れた静寂の中で私はゴクリと唾を飲み込んだ。
今、目の前で繰り広げられていた出来事は男女の修羅場。そう見えた。
まるでドラマのようなワンシーン。
それに遭遇した私は、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。