恋のカルテ
「信じなくてもいいが、ひとつだけ聞きたい。自分には関係ないなんて言いながら、どうしてそんなにムキになるんだよ」
「どうしてって……」
「分からないのか?」
覗き込む先生の顔でできた影が、私の頬に落ちてくる。
「なら教えてやろう。お前のオレへの気持ち」
言うや否や先生はあたしの顎を親指と人差し指で掴んだ。
グッと引き上げられると互いにつかんだままだった紙袋が床に落ちる。その瞬間「あ」と発した声は、外に漏れることなく先生の唇によって遮断された。
「やめてください!」
私は先生の胸を力いっぱい押した。するとその反動でよろけたのは私の方で、そのまま床に尻もちをつく。
「大丈夫か、高原」
先生が差し出した手を振り払い、下から先生を睨みつけた。
「本当は気づいてました。私、嫉妬してたんです。あんな場面に出くわして、正直ショックでした。離れてからは、いつも先生のことを考えていましたから。……でも、私には圭人がいる。だから必死で気付かないふりをしていたのに、どうしてそんな意地悪するんですか?」
言い終わると落ちた紙袋を手に取って立ち上がる。
そして内科医局のドアノブを掴み、その中へと逃げ込んだ。先生は追ってはこなかった。
打ち付けたお尻はずきずきと痛んだけれど、心の焦げ付きは跡形もなく消えていた。