恋のカルテ
「ただいま」
玄関に無造作に置かれた圭人の靴を見て、私は小さなため息を吐いた。
私は自分の気持ちに気付いてしまった。
先生への想いを抱いていること自体が、圭人への裏切りに他ならない。
罪悪感を抱きながら暮らすくらいなら、別れを切り出せばいいのだが、それは出来そうもない。
「圭人、早かったね。ご飯すぐ作るから」
「……いらない」
「そんなこと言わないでよ。すこしでもいいから食べないと。昼間もほとんど食べてないんでしょう」
「食べてるよ」
それは嘘だ。
圭人を見ていればわかる。最近さらに痩せて、頬がこけてきた。仕事が彼を追い詰めているのだろう。
精神的にも肉体的に限界なのかもしれない。
そんな圭人を支えられるのは、私しかいないのだ。
「圭人。私にできることがあったら何でも言ってね」
「……いいのか」
「もちろん。私、圭人の支えになりたいの」
それは本心だった。罪悪感からではなく、私の圭人への愛情。
数日後、圭人が私にお願いしたいことがあると言った。
以前、新薬の採用を断られた病院の院長との会食への同席。
部外者の私がいては、邪魔になるのではないかと思ったが、人脈を広げるのにもいい機会だと思うと先方も快諾してくれているそうだ。
二つ返事で引き受けることにした。